漫画 「バルバラ異界」 全4巻 [漫画]
萩尾望都 小学館FS(フラワーズ)コミックス(各¥505 税別)
オススメ度 ★★★☆☆
※すみません、「青羽」を「青葉」と書き間違えていましたので直します。(8/9)
2006年の「日本SF大賞」受賞作。
面白い。でも難しい。
読み終わってすぐ読み返した。混乱していたから。込み入ったストーリーが苦手な人にはすすめられない。
1巻の第1話では、青羽(6歳くらい)という少女が住む町、バルバラの様子が描写される。外国?と思っていると、子供たちが空を飛んでいたり、全身に若草を生やした女性たちが屋根の上で光合成をしていたり、老人が「20年前に火星と戦争があった」と言ったり、どうやらここは異世界、または遠い未来のようだ、ということがわかる。
第2話は、近未来。(色々な点で、物語の「今」が、『現在の延長線上のいつか』である、という事が伺える。異世界ではない様子。あとから、西暦2052年であることがわかる。)
プロの『夢先案内人』の渡会(わたらい)時夫が依頼された仕事は、両親の死亡した日以来、7年間眠り続けている青羽(16歳)という少女の夢に介入してほしい、というもの。
脳内スキャナを使用しても、どういうわけか夢を探れないため、渡会が夢に入れれば、彼の脳をスキャンすることで、青羽の治療の糸口がつかめるのでは?というもくろみ。
そして読者は、第1話の「バルバラ」が、青羽の夢の中の町であることを知る。
さて、ここからが複雑。
青羽の母親(茶菜)が、夫を殺して自殺したらしいこと、青羽に心臓を食べさせた可能性があること。
→なぜ、何のために?
渡会の息子(キリヤ。15歳。離婚後、何年も会っていなかった)が、バルバラと名づけた島を想像(創造)していて、心理的な逃避の場にしている、ということ。(しかも、この島は、小豆島付近の航空写真でぼんやりと確認されているが、その付近にそんな島はない。キリヤはそのことを知らない。)
→なぜ渡会の息子と青羽の夢がリンクしているのか?なぜ現実に出てきているのか?
青羽の祖母(十条奈々美)の話によると、娘(茶菜)には何の精神的な問題もなく、問題があるとすれば自分の叔母とかけおちして、現在行方不明の元夫(エズラ・ストラディ)だ、ということ。
→なぜここでわざわざその人物について語られるのか?
などなど、など。
夢と現実とが交錯し、読者の頭も、渡会の頭も、「なぜ?」でいっぱいになる。
最終巻で、全てのなぞが見事なまでに集結していき、読者も渡会も、「ああ、なるほど」と思う。
しかしまだ「なぜ」という気持ちは残る。
読者は、「なぜ、こんなことになってしまったのか。」と思う。
渡会は、「なぜ、自分はこうしなかったのか」「なぜ、自分はああしてしまったのか」と思う…。
最後には全てが丸く収まる…のだが、こんな結末で良かったのか?読者も、渡会も、こんなことは望まなかった…というか、思いもしなかった結末だったのではないか。
そして、そのことを知っているのは、渡会と読者だけで、他の登場人物たちは、今のこの現実以外の現実を知らない。
だから、「これでよかったのだ、これで丸くおさまったのだ」と思うしかない。そういうハッピーエンド。
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