小説 「東京奇譚集」 [小説]
小説 「とうきょう きたんしゅう」
村上春樹 新潮文庫(¥400 税別)
オススメ度 ★★★☆☆
ひさびさに村上春樹を読んだ。短編集。(ちなみに、2は、「東京」の奇譚ではないが。)
・収録
1)偶然の旅人
2)ハナレイ・ベイ
3)どこであれそれが見つかりそうな場所で
4)日々移動する腎臓のかたちをした石
5)品川猿
冒頭に、「どうも村上春樹です、これから僕が経験した不思議な話や、僕がひとから聞いた不思議な話を書きますね。どれも事実なんですよ。」みたいな(こうは書いてないけど)ことが書いてあるので、この本に載っている短編5つ全てがそうなんだ、と思って読み進めてしまった。
村上春樹自身の、そして彼が人から聞いたというのは、最初に収められている「偶然の旅人」という話だけで、他の4編は創作なのね、と、気づいたのは、なんと最後の話(「品川猿」)の、しかも最後のほうになってからだった。
つまり、2から4は、私にとって、「村上春樹的に『ありそう』」と思える話だったわけですね。ついでに言うと5は最後のほうで「えっ何?いくらなんでもありえない!」と思ったわけなんだが。飛翔しちゃってんのよ…。
本当の話なんだと前置きしてある短編は以前にもあったと思う。海外でエビだかカニだかを食べる話…違ったかな?
本人も書いているけれど、小説家が「これ本当なんですよ」といくら言っても、こういう形(小説本として)で発表する限り、「ほおー村上春樹的だわね」と思われるだけだと思う。ウソだとまでは思われなくても。
そして本人も十分承知の上で「これは事実なんですよ」とわざわざ書いているのだろう。
さて、この小説集の中で、私が一番好きだと思ったのは「ハナレイ・ベイ」だった。息子を亡くした中年…よりもっと上?…の女性が主人公で、彼女は、息子が亡くなったことその他を受け入れるために、あることをし続ける。「そうすることで最後に彼女は『報われ』るだろうか?」と思って読んでいたら、私が思う形では『報われ』なかった。でも、私が思う形で『報われ』なくて良かったんだろうな、とも思えた。
全体に、相変わらず、「春樹節」。でも今回はそんなに「ケッ!」と感じなかった。それはそれでいいんじゃないかなーという感じだった。
男「まるで一つのルールとして、そこに完全な形で、その言葉が存在しているかのように。」
女「完全な形で。」
男「そのとおり。」
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