小説 「探偵三影潤全集〈1〉 白の巻」 [小説]
仁木悦子 出版芸術社(¥1680 税込)
オススメ度 ★★★★☆ うーん、★★★かも?
仁木悦子といえば、素人兄妹探偵モノが一番有名だろうけれど、職業探偵(探偵事務所勤務)が主人公のものも書いているのです。
仁木悦子…生きていれば、もっと色々書いてたんだろナー。
宮部みゆきの「誰か」(私のレビュー記事へのリンクです)を読んで、急に「三影潤シリーズが読みたい」と思い、手元になかったのでハードカバーを購入しました。ハードカバーを買うのは久しぶりでした!表紙が安野光雅さんだったので、予定外にうれしい。
収録作品
・冷えきった街
長編。主人公の探偵が、大きな邸宅を訪ねるシーンから始まる。次男が路上で何者かに殴られ、長男はガス中毒(死ななかったけど)になり、今度は、小さな長女を誘拐するという脅迫状が舞い込んだため、家長から、警備と調査を依頼された探偵。
調べているうちに、次男が再び襲われ(死なないけど)、長男はついに毒殺され、母親(後妻さん)も撲殺される。やがて過去の事件も明らかになってくる…。
最後には真相を突き止めるものの、探偵は事件自体を防ぐことができず、悲劇に次ぐ悲劇、という感じのお話。(あ、よく考えてみたら、名探偵モノと言われる作品って、たいがい、未然に防がないよね…。)
・白い時間
短編。行方がわからない25歳の息子を探してほしい、大切なお見合いが控えているのだ、という母親の依頼を受けて、探偵は、息子が所属していた劇団の仲間たちを中心に調査を始める。やがて、脚本家の死体を発見。どうもこの件に行方不明の男性がかかわっているらしい。
名探偵コナンっぽい「トリックの解明」が、事件解決の鍵となる作品。
・白い部屋
短編。探偵はケガの治療のために入院中。(なんか、犯人に銃で撃たれたらしい!びっくり。)4人部屋の同胞(?)たちと、以前起きた殺人事件について雑談しているうちに、真相に近づいていく…という、いわゆる安楽椅子探偵(アームチェア ディテクティブ)状態の作品。
(以下、長編の「冷えきった街」について書きます。)
以前にこれを読んだのは、いつだったか…、多分、私が少女だった頃です。(作品そのものは、1971年(昭和46年)に書かれたもののようです。)
若かった、いや、幼かった。(あ、リアルタイムで読んだわけじゃないですヨ。)
当時、登場人物の一人、「冬樹」という人物に、「ちょっといいナァ」なんて感情を抱いた記憶があります。
冬樹くんは金持ちの息子ですが、親からかえりみられず、孤独で(まあよくある設定なんだけど)、私の中では「美少年」のイメージでした。特に、夜中に、古い倉庫の前でトランジスタラジオを聞いている様子は、「うーん、かっこいい!」と思えて仕方がなかった!
ところが。
(上記の文章が過去形であることに気がつかれた方も多いことでしょう…。)
大人になった私は、「うーわーオボッチャン。青い。未熟者!」と思ってしまいました。現在の私にとっては、どのシーンをとってみても、冬樹くんについては「しょうがない若者だなあ」という気持ち。
主人公の三影潤のことすら、「若いわねぇ」と感じてしまったほどでした。
嗚呼、あの淡いあこがれの心はどこに。
三影潤は、そんな「青々」な冬樹くんのことが気になって、ちょっと面倒をみてやったりします。一緒にスキーに行く約束をしたり、チーズトーストを作って食べさせてやったり。
うーん、ステキ!と昔の私は言ったでしょう。
フン、ほっとけば良いのよ!と今の私は言っちゃうなあ。ハハハ。
ところで、チーズトーストなんて、当時はシャレた食べ物だったんじゃないかなー。(現在だったら、ピザか何かをとってやる、って感じ?)
あ、上で書いた「トランジスタラジオ」もそうなのかも。当時としてはカッコよかったんですよね?
色々なシーンで、「カッコいい」と読者に思わせる効果を狙ったハズのものが、今日では、やや色を失っているんですよね、残念ながら。ページの間あいだから、昭和のニオイが立ちのぼってくるわけで。
正直、私にとってこの状態は、「興をそぐ」ものになってしまいました。それで★1個、減らそうかな?と冒頭に書いたわけなのです。
古い作品なんですから、もちろん、古く感じられて当然です。それはそうなんです。
でも、「日本のちょっと古い情景」を、リアルに理解(わか)ってしまえるだけに、余計に古くさーく感じられるような気がします。
「レトロ」まで古びてしまえば、それはそれで趣があるんでしょうけど。懐古と「古臭い」って、かなり違いますもん。
例えば、「だっちゅうの」は古臭い気がするけど、「あなたのお名前なんてーの?」は逆に新鮮じゃない?みたいな感…何、知らない?えー…。
もしかしたら、私が、ハードボイルドについての「こうあるべき」みたいな固定概念を持っているせいで、カッコイイと素直に思えないだけ、なのかも知れません。
どんなもんでしょ。
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