小説 流れ行く者(守り人短編集) [小説]
小説 「ながれゆく もの もりびと たんぺんしゅう」
上橋菜穂子 新潮文庫(¥578 税込) オススメ度 ★★★☆☆
「守り人」シリーズの短編集。
子供時代のバルサとタンダの話。
以下、ネタバレです。
「精霊の守り人」(せいれいの もりびと)から始まった「守り人」シリーズ。
これまでに長編が七作出ています。
一作目の「精霊の…」の時、幼い皇太子「チャグム」を守るため、
命がけの旅に身を投じた、短槍使いの女用心棒「バルサ」は30歳でした。
彼女の幼なじみ、呪術使いの「タンダ」は28歳。
そして、最終巻は、開始から6年後の話です。
ファンタジーなのに、いきなり高年齢の主人公たち。
(それが面白いんですけどね。)
この短編で描かれるのは、少女時代(13歳)の彼女、少年時代(11歳)の彼です。
当然のことながら、まだまだ「精霊の…」のバルサやタンダではありません。
まだまだ、未熟者なのです。
一体どんな経験を経れば、あのバルサ、あのタンダになるのか。
その一端が描かれます。
*****
『浮き籾』(うきもみ)
バルサ13歳、タンダ11歳。
村はずれに、人を襲う山犬が出るという。
村のみんなは、以前行き倒れたオンザ(タンダの親戚)の祟りだと噂をするが、タンダにはそう思えない。
バルサとタンダは、真相を確かめようとする。
「浮き籾」とは、刈り取った稲籾を水に浸けると浮いてくる、芽を出さない米のこと。
人の中にもまた、浮き籾のような者が存在するのだろうか。
『ラフラ<賭事師>』
酒場の用心棒をつとめる養父の「ジグロ」、酒場の手伝いをして働くバルサ。
バルサは、腕利きのラフラ(賭事師)の老女、「アズノ」に気に入られ、可愛がられる。
ある日アズノは、領主「ターカヌ」の館に招かれ、バルサを伴って領主のもとに赴く。
彼女は、50年も前から、領主とススット(サイコロを使った賭け事)を続けているのだ。
一進一退の素晴らしい攻防が続き、今回もなかなか勝負がつかない。
年老いた領主は、自分の孫息子「サローム」が、自分に代わってアズノと決着をつける事を望む。
アズノの表情は暗い。それは、バルサが知らなかった「ラフラの仕組み」のせいだった。
『流れ行く者』
突然倒れて高熱を出した養父のジグロ。
しかもジグロは「こんな暮らし、やめるか。」とバルサに言う。
不安な思いの中、ジグロは隊商の護衛の仕事を受ける。
因縁をつけてきた護衛仲間に槍をふるう事をためらったバルサに、ジグロの怒声がとぶ。「なにをしている!」
(筆者注:大人のバルサは、しかけてきた者には容赦ないのですが、13歳のバルサはまだそういう事が出来ないのです。)
旅の途中、隊商は襲撃を受ける。
バルサはついに「やらなければやられる」という窮地に陥る。
『寒のふるまい』(かんの ふるまい)
(5ページほどの短編です)
冬のはじめ、タンダは今日も残飯を集めて山に向かう。
「寒のふるまい」は、冬の間、食べ残しを山の獣に分けてやると里の人に害をなさない、という古い習慣だ。
そうして山に入っては、タンダは村の外から村へと続く道を見守る。
数日後、大小二つの影が、その道をたどって近づいてくる…。
*****
いずれも、日常の一角を切り取ったようなお話。
作者自身が文庫版あとがきで書いているように、子供向けのファンタジーとしては難解かも知れません。
だから、お勧めの星は3つにしました。
子供たちは「わからなかった」という感想を抱くだろう、と作者は言っています。
しかし、バルサやタンダが大人になったように、子供たちがいずれ大人になって、
「ああそうだったのか」と思う日が来ることを、作者は願っているようです。
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